2017年 第23回全国大会 院生組織 発表報告

2017年8月24日
第23回全国大会院生企画 院生ブックレビュー「動物(へ)の変身」

 発表者は4名、高橋実紗子(聖心女子大学・院・博士 2年)、馬場理絵(東京大学・院・博士2年)、三宅由夏 (東京大学・院・博士3年)、笠間悠貴(明治大学・院・ 博士3年、写真家)である。以下に発表内容をまとめ、 報告としたい。  
 高橋は、ジョン・ウェブスターの『モルフィ公爵夫人』(John Webster, The Duchess of Malfi[1623])より、ファー ディナンド公爵の狼への変身を取り上げた。この人物の変身は心理的な病であると診断されるが、変身は皮膚の内側という身体的なレベルにおいて起こるため、ここに 初期近代の人々の関心、人間を如何に定義できるのかという問いの反映を見ることができると論じた。馬場は、『ジェイン・エア』(Jane Eyre[1847])の主人公ジェインとバーサの緊張関係についての考察を示した。ヴィクトリア朝において想像力と飢えの感覚は、理性に対置する身体感覚とみなされ、それらが動物的感覚となって主人公のうちに動物への変身の恐怖を生じさせていると指摘した。三宅は、『ジェイン・エア』の語り直し作品であるジーン・リースの『サルガッソーの広い海』(Jean Rhys, Wide Sargasso Sea[1966])より、バーサ=アントワネットが作品の末尾で鸚鵡(=人語を真似する動物) のイメージと重ねられる描写に、「オリジナルとコピー」「支配者と被支配者」の図式を反転させる装置としての「物まねmimicry」の力を読み解き、そこにポストコロニアル批評とエコクリティシズムの接点を示した。笠間は、ジェイ・アプルトンの『風景の経験』(The Experience of Landscape[1975])より、狩りの行為になぞらえられる「眺望―隠れ場理論」に示される「風景の体験」に動物と人間の近接関係を可能にする視点を見出し、自らの撮影作品の解釈の方法に援用することで、これらを説明・ 解説した。
 本企画により、専門の異なる院生たちが変身のテーマ をともに考え、意見交換をすることで、人と自然の〈交感〉あるいは人と自然の関係性への考察を深めることができたと考えている。


執筆者:馬場 理絵 (Asle-J Newsletter No.43 [2017年10月発行] 「院生組織だより」より再掲)