邂逅の場としての展覧会「長万部写真道場 再考」

邂逅の場としての展覧会「長万部写真道場 再考」

 雪深い風土、先住民族アイヌとその風習、牛や馬と働く開拓農民、木造の漁船と漁師、サーカスの象や旅芸人、元気に遊ぶ子どもたち。北海道長万部町で戦後復興期を生きた人々の姿が、気取らない様子で写っている。2018211日から25日まで長万部町学習文化センターで開催された「長万部写真道場 再考」展には、リアリズム写真運動に影響を受け1950年代に活動したアマチュア写真家集団「長万部写真道場」が残したモノクロ写真57点と、コンタクトシートなどの資料が展示されていた。地元の美術家、中村絵美が、「道場」の活動に興味を寄せ、当時のプリントを整理、保存し、充実したキャプションと共に構成したものである。最終日にはフォーラムも開催され、写真の研究者で明治大学教授をつとめる倉石信乃、青森県立美術館学芸主幹の高橋しげみの両氏が基調講演をおこなった。
 リアリズム写真運動は、土門拳らを中心としてアマチュア写真家を巻き込んだ運動であり、戦後社会のゆがみや貧困にスポットを当て、その内部に入り込み現実を見つめようとするものであった。土門の言う「カメラとモチーフの直結」とは、相手の無意識に到達するまで、撮影者と被写体が徹底的に対峙することを指す。そしてそこには、自己と対象が合一しうるというロマンチシズムが含まれている。「道場」の写真家たちは、土門の提唱に共感した多くのアマチュア写真家と志を同じくしていたという。けれども、「長万部写真道場 再考」展に展示された写真の一つ一つを見れば、被写体との対峙というようなものは感じない。写真家の力量によって相手を深掘りするというよりむしろ、被写体との信頼関係こそが前景化していた。それはまさに、長万部という土地でかつて起きた出来事の顕れであり、タイムカプセルを60年振りに開けたような感動だった。時を隔てた地元での展示は、リアリズム写真運動の主意をすり抜けてなお、写真の幸福な受容を開示していた。

長万部写真道場研究所HP : http://occ-lab.org/

執筆者:笠間悠貴(Asle-J Newsletter No.44 [20186月発行「院生組織だより」より再掲))