2019年 第25回全国大会 院生組織 発表報告

2019年8月31日
2019年度全国大会  於・大東文化会館
院生組織グループ発表「見えない景色を旅する」報告

  今夏の全国大会、院生組織では「見えない景色を旅する」というテーマで8名のグループ発表を行った。前半、伊東弘樹は幸田露伴の「水の文学」を読むことで、沈められた東京の河海の記憶を浮かび上がらせる可能性を示唆した。江川あゆみは鏑木清方の随筆「新江東図説」について、「新江東」は名所江東の俤を追いつつ、郊外化のすすむ東京に抵抗を示すことで見出されたことを論じた。谷口岳は下北沢駅前市場解体で見つかった古い看板が残す外国人移民の痕跡を「次元の穴」(吉増剛造)の例とし、より多くの「次元の穴」を残す街の変化とはいかなるものか問うた。笠間悠貴は写真家渡辺兼人の作品「忍冬」について、水辺の消失に価値判断を下さず、被写体そのものへと通じる回路を開く試みであると論じた。
  短い質疑を挟んだ後半、戸張雅登はゲーリー・スナイダーの詩“Night Song of the Los Angeles Basin”を読み解き、数多の存在からなるBiosphereとしてのロサンゼルスの姿を浮かび上がらせた。林真はマリノフスキーの日記と民族誌をめぐる西洋的主体の隠匿とその魔術性について論じ、三宅由夏はジーン・リースの短編「懐かしき我が家」において、白人クレオール女性の「ゾンビ」である「彼女」の視線を通して境界と変容を書き重ねるリースの繊細な筆致をたどった。最後に、青田麻未はこれまでの発表を環境美学の観点から振り返り、それぞれが論じた作品や実践を「見えない景色」を見せるフレーミングの試みとして統一的に考察した。青田のまとめは多岐に亘った報告をいま一度「見えない景色を旅する」というテーマに立ち戻らせ、多様な専門分野を持つ会場の参加者に対し議論を開くものとしても機能していた。
「見えない景色」が生まれるとき、そこには環境や認識の変化をともなう。それぞれの発表で示された変化への多様な反応は、それこそが自然/環境表象を再帰的に問う環境文学批評の射程の広さを示しているのではないだろうか。

執筆者:江川 あゆみ (Asle-J Newsletter No.46 [2019年10月発行] 「院生組織だより」より再掲)