2020年 第26回全国大会 院生組織 発表報告

2020年11月22日

2020年度全国大会  於・オンライン

院生組織グループ発表「性と食」報告


 ASLE-Japan院生組織は「性と食」というテーマで7名のグループ発表を行った。

 はじめに、江川は本テーマを設定するきっかけとなった赤坂憲雄『性食考』のブックレビューを行った。本書の主眼と各章の概要をまとめた後、野田研一が赤坂との対談で述べた発言を引き、環境文学研究が性を扱う意義を論じた。

 発表前半、三宅はラフカディオ・ハーンがカリブ海で聞き書きした異類婚姻譚における「性と食の交わり」に着目し、その民話に織り込まれた「肉食」への意識や固有の歴史性、場所性について考察した。続いて、高橋は「眠り姫」「髪長姫」「赤ずきん」などのお伽話にみられる食べることと身ごもることの結びつきに着目し、物語における交わりの器官としての口の機能(上の口/下の口)を再考した。そして、笠間は死体が朽ち果てる様子を描いた九相図を通して、死が即次なる生命を育む再生の場であることを認めるとき、観る者自身のパースペクティブをも揺らがす事態に直面するまでの経緯を探求した。

 短い質疑を挟んだ後半、伊東はグリム童話内で生け贄が行われる風景に着目し、その場所(森)やモノ(動物の臓器)にまつわるフォークロアを明らかにすることで、ヨーロッパ圏の狩猟文化の痕跡を浮かび上がらせた。次に、戸張はグリム版「白雪姫」が成立した時代背景を踏まえ、ドイツにおける自由狩猟をめぐる問題と狩る・狩られる女性について考察した。最後に、林は文化人類学者ブロニスワフ・マリノフスキの日記に登場する性と食の関係について、「暮らし」の「分析」についての久保明教による議論などを参照しながら考察した。

 質疑では、森谷氏から、本発表のように、性と食の繋がりを強調する文化的思考と、両者を別の現象と考える自然科学の知との「間をつなぐ階梯」のようなものがあるか質問がなされ、結城氏からそれはニューマテリアリズムの観点につながる問題意識であり重要な示唆であるとの指摘があった。

 本発表は、昨年から継続して行われた勉強会、そして、赤坂氏との読書会を踏まえたものであった。その際、赤坂氏はコロナ禍において大きく変化する「性と食」の現場への注目を促してくださった(「ナウシカのかたわらで、コロナを想う」『中央公論』2020年11月号)。今後はアクチュアルな問題も捉えられるよう、引き続き努力したい。


執筆者:伊東 弘樹 (Asle-J Newsletter No.49 [2021年1月発行] 「院生組織だより」より再掲)